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ホトリニテ 山梨の自然をたっぷり感じられる宿が 都心からわずか2時間の場所にありました。

この宿、まずもって絶妙な宿名


乙女湖の湖畔に佇む「ホトリニテ」。

最初、ダムによりできた湖と聞いて、人工的な湖に期待薄だったのだが、
ダム湖は波は無く,山間に作られた鏡の湖面は見事なまでの光景。まさに乙女の鏡のようだった。

ぶどう棚を両側に、クネクネ道をやってきて、たどり着くのは、
薪に囲まれた和モダンな門扉の美しい平屋の日本家屋

感じたのは、「この宿は、究極 ゲストを選ぶ宿ではないか」ということ。


ペンションとも旅館とも,ホテルとも違う。
山梨という都心からもそう遠くない場所にある,まさに隠れた宿だけれど、宿泊体験を書けば書くほど、この宿の魅力を表せなくなる、という中々ハードルの高い宿なのだ。

最初のハードル。
まず、最寄駅からの交通手段が無い。タクシーで約40分ほど。車酔いする人なら,耐えられない山路を標高1500mまで上がって行く。「乙女湖の宿」といえば通じる。タクシーは片道7500円弱。

次のハードル。
1日1組のみ。
この宿は2室のみ。最大4人まで限定。高村さんというファミリーが総出でもてなして下さる。

そして3つ目のハードル。
煌びやかでもない。特別なファシリティがあるわけでもない。テレビ番組で取り上げらるような絶景があるわけでも、ない。食事は奥様の手作り。物凄く豪華なわけではない。

何が飛び抜けているわけではないのに、
まるで,初期の頃のアマンリゾート まだ伝説の世界のバリ ウブドのアマンダリやサヌールのタンジュンサリに宿泊した時を思い出した。
モノでは無く、見えない誰かの手による気持を感じる温かなサービスを度々感じる滞在なのだ。

近年のラグジュアリーホテルと大きく異なる点は、決してマニュアル化されたものではなく、ゲストとホテルスタッフとの無言の対話のような何か、が繰り広げられる点のような気がしている。
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ゲストとホテルスタッフの距離感の絶妙

お願いしたいことを伝えると、常に<想像したよりちょっとひと手間>かけてくれるサービス。
ホテルサービスの究極と言えると思う。
ゲストルーム以外の夕食をいただくサロンルーム、美しい茶の間、そしてお風呂。
時刻とタイミングを見事に図って、高村さんが置かれている椅子の位置や暖炉をつけるタイミング(6月末の暑い夜も薪暖炉がちょうど良い涼しい夜)、そしてどこかで焚かれている良い香りのお香。
ゲストの動向にあわせて、宿のしつらえがトランスフォームしていく感じは、正にかつてのアマンリゾートだった。

ホトリニテの滞在は、「童心にかえって山と森と湖」を愉しむこと

14時にチェックインして,少し休んだら、パソコンを見ながらホテル発のアトラクションの簡単なオリエンテーションがある。1組1つだけ体験したいことを選ぶことができる。
私は「サルオガセ水晶ロード&鉱物研磨研究所」を選んだ。
出発は16時。車で10分ほどの森の中を歩き、足下の石ころを金槌で叩いて,天然の水晶を探す,というアトラクションだ。途中雨が降ってくるも、何だか子供に返ったようなヤマ遊びの時間を過ごす。

宿に戻ってからしばらくして、鉱物研磨研究室の室長の登場。
シャツに着替えた小学生の喜楽之助くんの登場に意表を突かれる。
彼の指導のもと、何種類かの研磨機を使って、石を磨くのである。
小学校の理科の時間にまぎれた様な不思議な時間を過ごす。
子供の頃の夏休みの擬似体験である。

食事はサロンルームに用意される。
特別豪華なわけではないが,気持ちのこもった地のものを使った温かみのあるメニューの数々。

翌朝のご飯は、茶室で食べたいとリクエストをした。

鉱物研磨研究室室長の指導を受ける
優しい夕食

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とにかくセンスの良さを感じる


ホトリニテは、高村ご夫婦それぞれ半々の意見を取り入れながら運営されていると伺ったけれど、
とにかく一時が万事,センスが良いなぁと感心した。

玄関前のレセプションに下がる狼?のランプやちょっとした置物、食器や各部屋の借景のセンスなど、ゲストと宿のファミリーが心通じ合うギリギリの線を愉しめる宿。

しいてリクエストするなら、
アトラクションを体験すると、初日があっという間なので、もう少しゆっくり楽しみたい。チェックアウトは11時くらいまでダラダラ過ごせたら良いなぁというのが感想。
いつまでもだらだらしたくなる宿なのである。

時刻により様々な表情になるサロンルーム
茶室での朝食


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心地よさって何だろう?

帰宅してから、このインタビュー記事を読んで,腑に落ちた。

今まで自分で色々な場所の様々なホテルに泊まってきたけれど、ホトリニテはそれらのどことも違った。
この宿の良さを箇条書きにするのは,何が違う。
宿のファシリティや食事のうんちくを語るのでもない。
「ほどほど」とか「ちょうど良い」とか、何か絶妙なバランスで繰り広げらる宿のファミリーとゲストとの距離感。
時間と共に本のページがめくられるように、進んでいくホトリニテという物語のような
乙女湖のほとりで繰り広げられる何気ない1日。

考えれば考えるほど言葉にできない。

けれど、このインタビュー記事を読んで、何か自分の感じた心地よさ、のようなものの輪郭が見えた気がした。

“今”から未来の定番を探るメディア FUTURE IS NOW より抜粋
前篇|〈ホトリニテ〉に見る、寓話の世界を旅するかのような安らぎのツーリズム。
後篇|〈ホトリニテ〉に見る、寓話の世界を旅するかのような安らぎのツーリズム。

このインタビューの中で,高村さんがお話しされている。

〈ここに来て、寓話の世界に入って「あれは何だったんだろうね」と思うぐらいの想像力を持って帰ってもらいたいと思ってるんです。〉

「ホトリニテ」。

改めて絶妙な宿名だと感心する。

また季節を変えて訪れたいと思っている。 (PINK 萩原勇太)