僕がメキシコシティを初めて訪れたのは2023年。映画好きの僕にとって数々の映画から受けた「メキシコ」はヒリヒリするくらいコワい印象だった。(これはイチ旅行会社の人間としてはとても恥ずかしい。)それはそれは空港からホテル、街歩きまで散々ビビりながら散策をはじめ、
「あれ?思っていたよりみんな優しいし、きれいなところじゃん。」と半ば拍子抜けした。

CONTENTS
長期滞在して感じたメキシコシティ(CDMX)という街の心地よさ
それから2年後。理由あって2025年2月から、メキシコシティに4か月滞在した。
涼しい冬から、街を歩けば、春の訪れを告げる薄紫色のハカランダの花が街のあちこちで咲き誇り、淡い紫のグラデーションが青い空に溶け込む。
いわゆる「危険」といわれる場所を避けさえすれば、びっくりするくらい居心地がよかった。
まるで1990年代の一番面白かったニューヨークのビレッジにいるような印象。
実は事実、コロナ禍以降恐ろしく物価の上がったアメリカを抜け出したノマドワーカーの若者たちがかなりメキシコシティに移り住んだらしく、一部のエリアでは英語が普通に通じ、ミシュランレストランが軒を連ね、びっくりするくらいおしゃれなショップもたくさんできていた。
もちろん、水問題や不自由なこともたくさんあったが、標高2300m(富士山5合目くらい)の気候と空気の薄さに慣れた頃には、ヨーロッパ風の古い邸宅を改装した洒落たカフェやレストランに通い、町中にあふれるポップだったりリアルなウォールアート(落書き)を楽しみ、メキシコ人の優しくてユルユルな日常にすっかり慣れ親しんだ。


2025年版・世界幸福度ランキング
そんな滞在中の3月20日――国連が定めた「国際幸福デー」にあわせて、2025年版・世界幸福度ランキングが発表された。
このランキングは単なるイメージではなく、各国約1,000人を対象に「いまの暮らしにどれだけ満足しているか?」を0〜10のスケールで自己評価してもらい、その平均値をもとに算出されたもの。対象は直近3年間(2022〜2024年)のデータで、客観性も高い。まさに「数字で見る世界の幸せ地図」。
評価基準は次の6つ。
- GDP(一人当たりの経済的豊かさ)
- 社会的支援(困ったときに頼れる人がいるか)
- 健康寿命(健康で生活できる期間の長さ)
- 人生の自由度(自己決定権の有無)
- 寛容さ(他者への思いやりや寄付・ボランティアなどの姿勢)
- 腐敗認識(政府や企業に対する信頼度)
さて、2025年のランキング上位10カ国はこちら↓。
世界幸福度ランキング2025 トップ10
🥇 1位 フィンランド(8年連続!)
🥈 2位 デンマーク
🥉 3位 アイスランド
4位 スウェーデン
5位 オランダ
6位 コスタリカ
7位 ノルウェー
8位 イスラエル
9位 ルクセンブルク
✨ 10位 メキシコ
なんと、メキシコが、世界の「最も幸せな国」トップ10にランクインしている!
陽気な音楽、美味しい食事、フレンドリーな人々――この国に来てから日々感じていた「居心地の良さ」が、こうして数字でも証明されたことは自分の感覚に間違いがなかったと、素直にうれしくなった。
そして、そんなメキシコシティにいながら、ふと「幸せとは何か」と考えてしまった・・・・
アメリカは24位、日本は55位――見逃せない現実
ちなみに、今回のランキングで注目すべきは“上位国”だけではない。
アメリカは過去最低の24位。そして日本は、先進7カ国(G7)の中で最下位となる55位という結果だった。
この順位には正直驚いたが、よく考えると納得できる部分もある。
物質的には豊かでも、日々の生活に心の余裕がなく、人との関係が希薄になっている社会では、幸福度が伸び悩むのも無理はない。
一方で、メキシコは2021年の36位から大きくジャンプアップし、ついにトップ10入りを果たした。
この国は、確実に変わり始めている。
子どもたちの笑い声が響く午後、メキシコシティの素敵さを自分なりにまとめてみた。

🪅変わりゆくメキシコシティ(CDMX)
とはいえ、日本人にとってメキシコは今なお「治安が悪い」「危ない国」というイメージが強いかもしれない。
私自身、初めて訪れた際は正直不安だった。スリや誘拐、麻薬カルテルといった報道が頭をよぎったし、実際日本で考えられないようなドラマチックな事件も起こっている。
けれど、実際に暮らしてみると印象は大きく変わる。
ここメキシコシティ(CDMX)は、思っていた以上に安全で、快適な街だ。
夜になると多くの人がリラックスして犬の散歩を楽しみ、公園やカフェは活気にあふれている。
“犬天国”と呼べるほどペット文化も豊かで、犬と暮らす人には特におすすめの都市かもしれない。
驚くべきは、リード無しで散歩している犬の多いこと。どうやってしつけているのか本当に不思議に思ったこともしばしば。
もちろん、注意すべきこともある。地域によっては警察による理不尽な検問や、物価のばらつきが見られることもある。しかし、エリアを選びさえすれば、ここは“十分に住める街”であると感じている。
🏙️ ライフスタイルを変える場所としてのCDMX
実際、コロナ禍を機にアメリカから多くの若者たちがこの街に移り住み、リモートワークをしながら自由なライフスタイルを築いている。
彼らが集まったエリアにはスタイリッシュなカフェやブティックが立ち並び、今ではおしゃれな高級エリアとして人気を集めている。英語も問題なく通じる。
メキシコは今、「幸せな国」としての進化の途上にある。
そしてその変化の空気を、日々の暮らしの中で肌で感じることができるのは、短い観光旅行ではなかなか得られない体験だと思うが、この街の<空気感>はぜひそこで過ごして、体感してほしい。
幸せとは、“日常の質”。
不便なこともある。
バスは時間通りに来ないし、道はガタガタ、Wi-Fiが急に止まることもある。
けれど、それでも不思議と心地いい。
この感覚の理由を考えてみたとき、次のような日常の小さな風景が思い浮かんだ。
✔ 子どもを大切にする文化
赤ちゃんを連れて歩いていると、見知らぬ人が笑顔で声をかけてくれる。
ときには「抱っこしていい?」と聞かれたり、おでこにキスされることもある。
家族間の会話も多く、休日はみんなで公園や外食を楽しむ。
家族を大事にし、人とのふれあいを大切にする文化が、街の空気を穏やかにしている。
✔ 犬たちが自由に、幸せそうに暮らしている
ドッグウォーカーが10匹近くの犬を連れて歩いていたり、ノーリードで整然と歩く犬たちがいたり。
動物に対する理解と愛情が深い社会は、人にもやさしい。
✔ 人に対して寛容である
レストランで注文が遅れても、Uberが来なくても、誰も怒らない。
時間にはルーズだが、それを責める空気はない。
過度に他人に期待しすぎないことが、かえって社会の寛容さにつながっている。
✔ 社会的に弱い立場の人にも開かれている
ランチタイムにミュージシャンが演奏に訪れ、チップを求めていく。
物売りの子どもや年配の女性が店内に入ってくることもある。
それに対して、店も客も寛容で、若者たちが自然とチップを渡す姿が印象的だった。
✔ 屋台文化が生む、会話とふれあい
30ペソ(約200円)で楽しめるタコスの屋台。
夜になると自然と人が集まり、見知らぬ人同士でも気さくに言葉を交わす。
食と会話がつながる場所が、街の人間関係を育んでいる。
「幸福度10位」は、数字の中の“日常”にあった
子どもや動物にやさしく、よく食べ、よく話し、他人に寛容であること。
こうした日常の積み重ねが、「幸福度ランキング10位」という結果につながっているように思う。
社会インフラやテクノロジーの進歩はもちろん重要だが、それは後からでも良いのかもしれない。
まずは、“人が安心して暮らせる空気”があることが何よりの豊かさだ。


P.S. ちなみに、あのブータンは…
個人的に昔から気になっていた国・ブータン。
2013年には世界幸福度ランキングで8位だったが、2019年には95位まで後退し、その後はランキングに登場していない。
インターネットの普及と、コロナ禍による経済の停滞、インフレ。
情報と経済の変化は、人の心に少なからぬ影響を及ぼす。
グローバル化は確かに利便性をもたらすが、それがもたらす“副作用”にも目を向けるべき時代に来ているのかもしれない。
それは今の日本も同じではないだろうか?
これからの日本に必要な視点
さて、日本はこれから、どこへ向かっていくのだろう。
GDPや効率性の追求だけでなく、**日常の中の「幸福感」**にもっと目を向けることが求められているように思う。
メキシコの暮らしから学べることは、想像以上に多い。
